作り手の想いTHOUGHTS OF THE CREATOR
製本一筋75年、Made in JAPANの強みを
活かしたオリジナルノート
渡邉製本株式会社

東日暮里にある渡邉製本株式会社は、昭和21年の創業時から辞書や学術書などの上製本を中心に手がけている会社で、機械加工と手加工を熟知した職人が作るオリジナルノートがいま大きな話題になっています。代表の渡邉氏と専務の彰子氏に、ノートの開発秘話と東京でのものづくりについてお聞きしました。
- ノートを開発することになったきっかけは?
きっかけは、2012年にアメリカのある会社から届いた1通のメールでした。日本の文具を輸入販売しているカリフォルニアの会社から「All made in JAPANのオリジナルノートを作りたい」と。出版不況で製本の仕事は減っているし、いつか自社製品を手がけたいという思いもあったので、思い切ってチャレンジすることにしました。これが『SEVEN SEAS CROSSFIELD』という万年筆のためのノートです。にじみ・裏抜けが少なく万年筆との相性が良い用紙「トモエリバー」を使用しています。
お互いに納得のいくものができるまで、なんと2年がかり。製本をやってきたので、とりあえず形は作れるのですが、デザインも売り方もわかりません。東京商工会議所に相談したところ専門家が派遣され、デザインから販路からすべて見直すことに。みっちりアイデアを練り上げたおかげで、非常に完成度が高いノートができあがりました。
このノートを作る過程で自社が長年培ってきた技術を改めて磨きあげることもでき、製品開発が一気に進みました。例えば、180°フルフラットに開く仕様は、長年の経験を元に機械加工と手作業双方の良さを組み合わせた“Lay-flat Binding”(レイフラット・バインディング)という製法を使い、熟練の職人が手作業で1冊ずつ仕上げています。
- 機械では作れないのですか?

はい、このタイプの表紙は機械製本ができません。さまざまな工程があり、1冊作るのにのべ数十人の職人の手が関わっています。機械加工だけでなく、手加工もできるのがうちの強み。もともと機械が壊れたときに備えて刷毛仕上げや手塗りができるようトレーニングもしていたので、その技術がノート開発にも大いに活きました。
- 『BOOK NOTE』とはどんなノートですか?
『BOOK NOTE』は自社製品の第一号で、2016年の11月に発売しました。サイズはB6とA5の2種類、カラーはルージュレッド、デニムブルー、フォレストグリーン、ウォームブラックの4種類。このノートには私たちのこだわりがたくさん詰め込まれています。
まず、開きの良さ。180°フルフラットに開き、手で押さていなくても勝手に閉じません。背中合わせに360°折り返して手に持って書くこともできます。秘密は「糸かがり」という伝統製法で、本の背を糸で縫うように綴じるので180°開くことができます。がばっと開いて使い続けてもノートの美しさは長期間変わりません。製本一筋75年、辞書や学術書などを製本してきた会社なので、丈夫なものを作るのは得意なんです(笑)。
次に、本文用紙はしっかりと筆記具を受け止めて滑らかな書き心地を叶えてくれる国産高級中性紙OKフールスを採用しました。長時間書いても目が疲れにくい淡いクリーム色で、方眼と無地の2種類。方眼は罫線がチラつかないように、太さや濃さなど何度も試行を重ねました。
小さなことにもこだわっています。ノートをめくる時に指先を切らないように、使っているうちに端が折れてしまわないように角を丸く。「ノートの1ページ目が使いづらい」という声に応えて、見返し用紙と1ページ目を手作業で貼り合わせました。表紙は手に持って書くときに下敷き代わりになる硬さにし、風合いのあるリネンクロスを使用して落ち着いた上質感を出しています。女性でも手軽に持ち運びできるよう、重さは約200gにしました。
製本会社なので、カスタムカットもお受けできます。お好きなサイズに3分割まで無料で、カットした裁ち落とし部分も一緒にお届け。裁ち落とし部分が意外と便利に使えると好評です。
- ほかにも魅力的なアイテムをたくさん作っていますね。

『NUtta』は、展示会で人気のアイテム。白を基調に、ゴムバンド・見返し・小口はターコイズ・レモン・コスモスのアクセントカラーをつけています。小口の色塗りは一つ一つ手作業で、紙の裁断面に刷毛で色を塗っています。
『epocke(えぽっけ)』は新製品で、しまって飾れる紙製ポケットフレームです。額縁のようなポケットフレームに絵をしまい、ゴムバンドで綴じると1冊の本のようになります。ゴムバンドを取り外せば1枚ずつバラバラに分かれるので、壁に立てかけたりピンチで吊るしたりして飾ることができます。1枚のポケットフレームには八つ切り画用紙サイズまで入り、ファイルを追加できるので、子どもが描いたままに作品をどんどんファイリングできます。
- 今後の展望などあれば教えてください。
今後は海外展開したいと思っています。日本の文房具って世界基準でみても高品質なんですよ。海外ではまだまだ文房具の質が低いので、日本製の高品質なノートには需要があります。すでに、ロンドンとパリ、ニューヨーク、ソウル、シンガポールのセレクトショップで販売を開始しており、大きな手応えを感じています。
手加工の技術も大切にしていきたいですね。刷毛を持っていない製本会社が年々増えているので、今後も刷毛仕上げを大切に守っていきたいと思っています。
- 東京でものづくりをすることの楽しさやよい所を教えてください。
何といっても市場調査が容易です。どんな商品が売れているのか実店舗に行ってリサーチできますし、年間を通じてあちこちで行われている展示会で開発した製品の反応を見ることも簡単にできます。
加工業者が多いのも東京の利点ですね。仲間に「こんなものを作りたいんだけど、できる職人さんいない?」と聞くと、すぐに紹介してもらえます。出版は東京の地場産業ですし、地方では激減している作り手が東京ではまだたくさん残っていて、横のつながりが作りやすいです。
東京都にはものづくりを応援する仕組みもたくさんあります。『えぽっけ』も、東京都中小企業振興公社の「事業化チャレンジ道場」というプログラムに参加したことで生まれました。3年間に専門家から指導を受けながらブランディングやマーケティングについて学び、アイデアを実際に製品として完成させるところまで伴走してくれるプログラムです。課題もたくさんあって大変でしたが、とても勉強になりましたし、異業種の仲間ともたくさん知り合えました。このプログラムがなかったら、『えぽっけ』は誕生していなかったかもしれません。助成金制度も手厚いですし、「東京って、ものづくりをするところなんだな」と感じます。
製品詳細
PRODUCTS
渡邉製本株式会社 開発事業者
http://www.booknote.tokyo/
※商品の詳細については、開発事業者にお問い合わせください